2011.7.11
検定における2種類の過誤
検定は,仮説を棄却するか採択するかのいずれかであるが,
統計量は分布をもつので,この判定には間違いが起こることがある.
以下のように,この過誤には
2 種類がある.
統計的検定における2種類の過誤
  |
仮説の棄却 |
仮説の採択 |
仮説が真のとき |
第1種の過誤 |
正解 |
仮説が偽のとき |
正解 |
第2種の過誤 |
第1種の過誤が有意水準である.また,第2種の過誤の確率を β としたとき,
仮説が偽のとき正しく仮説を棄却する確率,1 - β,を検出力という.
よい検定は,第1種の過誤を固定したもとで検出力の高い検定方式である.
検定における2種類の過誤のシミュレーション
帰無仮説:H0:μ = 10,の検定で第1種の過誤(タイプ1エラー)と
第2種の過誤(タイプ2エラー)の様子をシミュレーションでみる.すなわち,実際の母集団平均μを動かし,
サンプルサイズを n = 20 として,多数(1万回)の検定を行う.
- 帰無仮説が真(μ = 10)のとき:第1種の過誤の確率は 5 %で有意水準に一致.
- 帰無仮説が偽(μ = 11)のとき:検出力は 61 %で第2種の過誤の確率は 39 %.
- 帰無仮説が偽(μ = 12)のとき:検出力は 99.4 %で第2種の過誤の確率は 0.6 %.
6-3.2つの母集団に対する検定(分散既知)
両側検定
正規分布に従う2つの母集団 A,B があり,その母分散は等しく σ2 で既知であるとする.
母集団 A,B の母平均が μA,μB,であるとしたとき,
帰無仮説,H0: μA =
μB
対立仮説,H1: μA ≠
μB
の検定を行う.
母集団 A から大きさ n,母集団 B から大きさ m の標本を抽出したところ,
母集団 A からの標本の標本平均が x-,母集団 B の
標本平均が y-,であったとしよう.
母集団 A の標本分布は,N(μA,σ2)であり,母集団 B では,
N(μB,σ2)であることから,それぞれの標本平均は,
x- 〜 N(μA,σ2/n),
y- 〜 N(μB,σ2/m)
と分布する.これより,標本平均の差x- −
y- は,
と分布する.
帰無仮説(H0: μA =
μB)のもとでは,μA−μB = 0,なので,
標本平均の差は,
と分布する.これを標準化した z 値は,
と標準正規分布するので,標準正規分布表を用いて検定が行える.すなわち,検定統計量 |z | に対し,
|z | > 1.96 ⇒ 有意水準 5 %で帰無仮説を棄却.
|z | > 2.58 ⇒ 有意水準 1 %で帰無仮説を棄却.
とすればよい.
- 例題
-
通常の飼育方式と新方式による飼育方法で,鶏の1ヶ月の成長量に差があるか
調べたい.通常の飼育方式で 20 羽を飼育したところ,平均成長量が 100g,
また,新方式による飼育方法を 25 羽で行ったところ,平均成長量が 105g であった.
新方式は通常の飼育方式と成長量が有意に異なるか
両集団の標準偏差は等しく 10g であることがわかっているとして検定せよ.
- 解答例
-
新方式による成長量の母集団平均を μA とおき,通常の飼育方式の成長量の
母集団平均を μB とおく.
この問題での帰無仮説(H0)と対立仮説(H1)は,
H0:
μA = μB
H1:μA ≠ μB
と定式化される.
通常方式のサンプルサイズが n = 20 なので,平均成長量 x- = 100g の分散は,
σ2/n = 102/20 = 100/20 = 5 である.
一方,新方式のサンプルサイズは m = 25 なので,その平均成長量 y- = 105g の分散は,
102/25 = 100/25 = 4 である.
帰無仮説のもとでは,通常方式の平均と新方式の平均の差 x- - y- は,
平均 0,分散 100/20 + 100/25 = 9 の正規分布に従う.すなわち,
x- - y- 〜 N(0,32)
である.これを標準化すると,
z = (x- - y-)/3 = -5/3 = -1.67.
|z | = 1.67 < 1.96 ⇒ 帰無仮説は棄却されない
となる.すなわち,新方式は通常方式とは有意に異ならない.
Copyright (C) 2008, Hiroshi Omori. 最終更新:2011年 7月11日