2011.07.04

6.仮説検定

6-1.帰無仮説(H0)と対立仮説(H1

統計的仮説

統計学で扱う仮説とは,母集団に対する断定や推測.たとえば,

などである.

統計的仮説検定で用いられる仮説は,まず,帰無仮説という形式で与えられる.
帰無仮説棄却されることに意味がある仮説である.
帰無仮説と反対の仮説を対立仮説という.

上の3番目の例でみると,

帰無仮説: 母集団 A と母集団 B の平均は等しい. (H0: μA = μB
対立仮説: 母集団 A と母集団 B の平均は等しくない. (H1: μA ≠ μB

母集団 A と母集団 B は異なる処理(薬の投与など)をしているので,実験の目的 は,母集団 A と母集団 B の平均は異なる(処理効果がある)ことを言いたい (対立仮説が正しいことを望む)のだが,まずは 「等しい(処理効果無し)」と仮定してみようという考え方.

6-2.検定

検定統計量

 標本から算出される量で,検定に用いられるもので,z 値,t 値,χ2 値 (後で定義する)などがある. この値から帰無仮説を受託(採択)するか 棄却(対立仮説の採択)するかを判定する.

有意水準

 統計的仮説検定では,たとえば2つの母集団平均が等しいという帰無仮説を考えると, この帰無仮説のもとで,検定統計量(標本平均の差に基づく t 値など)以上 (もしくは未満)の値が得られる確率を求める.
くだけた言い方をすれば,帰無仮説が正しいとしたときに,標本のようなデータが得られる確率 を求める.
 これが十分小さい(ほとんどありえない)ときは,平均が等しいと仮定したことが誤りであったと判断して 帰無仮説を棄却し,2つの母集団平均には差があると結論づける.
この確率がそれほど小さく ない場合は,このような統計量が得られることもありえると考え,帰無仮説を採択し,平均が等しいと考え てもよいとする.
棄却か採択かの判断の基準となる確率を有意水準といい, 5 %1 % がよく用いられる.

例題
通常の飼育方式では,鶏の1ヶ月の成長量が平均 100g,標準偏差 10g であることが知られて いるとする.新方式 A による飼育方法を 25 羽で試したところ,平均成長量が 105g となった.新方式 でも標準偏差は変わらないものとして,新方式 A は通常の飼育方式と成長量が有意に異なるか 検定せよ.ただし,以下の標準正規分布の分位点(パーセント点)を用いよ.

検定に用いられる標準正規分布の
分位(パーセント)点
 確率     0.95    0.975    0.99    0.995
 分位点     1.64    1.96    2.33    2.58

解答例
新方式による成長量の母集団平均を μ とおき,通常の飼育方式の成長量の 母集団平均を μ0 = 100 とおく.題意より,新方式での成長量の標準 偏差は,通常の飼育方式と等しい σ = 10 とみなせる.
この問題での帰無仮説(H0)と対立仮説(H1)は,
H0:μ = μ0
H1:μ ≠ μ0
と定式化される.検定に用いる検定統計量は,標本平均を標準化した z 値の絶対値 である.
標本の大きさ n = 25 の標本の標本平均  \bar{x} = 105より,
|z| =\frac{\sqrt{n} |\bar{x} - \mu_0 |}{\sigma}=\frac{5|105-100|}{10}=2.5
である.新方式の標本平均の標準化値の絶対値 |z | = 2.5 は,両側 5 %点(片側 2.5 %点) の 1.96 よりは 大きく,両側 1 %点(片側 0.5 %点)の 2.58 よりは小さい.
よって,新方式は通常方式と成長量は 5 %水準で有意に異なると言えるが,1 %水準 では有意でない.つまり,5 %有意である.
検定の結論の書き方

片側検定と両側検定

実験状況によっては,薬投与などの処理を行った集団(処理群)平均 μA が,薬を投与しない 集団(対照群)の平均 μB より小さくなることはないことが事前に わかっているような場合が ある.このようなとき,

帰無仮説,H0: μA = μB
対立仮説,H1: μA > μB
となる.これは,事前情報より,μA < μB となる可能性 をまったく考えない場合である.
このため検定には,片側 5 %点や 1 %点を用いる.

例題
通常の飼育方式では,鶏の1ヶ月の成長量が平均 100g,標準偏差 10g であることが知られて いるとする.改良方式 B による飼育方法を25羽で試したところ,平均成長量が 103.5g となった. 改良方式は,通常方式より成長量が減少することがないことが知られている. 改良方式での標準偏差は変わらないものとして,改良方式 B は通常の飼育方式と 成長量が有意に増大したか 検定せよ.ただし,例題の標準正規分布の分位点(パーセント点)を用いよ.
解答例
改良方式による成長量の母集団平均を μ' とおき,通常方式の成長量の 母集団平均を μ0 =100とおく.題意より,改良方式での成長量の標準 偏差は,通常の飼育方式と等しい σ = 10 とみなせ,また, 改良方式平均 μ' は通常方式平均 μ0 より 下回ることは想定されない.よって,対立仮説は片側となり, この問題での帰無仮説(H0)と対立仮説(H1)は,
H0:μ' = μ0
H1:μ' > μ0
と定式化される.検定に用いる検定統計量は,標本平均を標準化した z 値 である.
標本の大きさ n = 25 の標本の標本平均 \bar{x} = 103.5より,
 |z| =\frac{\sqrt{n} |\bar{x} - \mu_0 |}{\sigma}=\frac{5|103.5-100|}{10}=1.75
である.片側検定なので,片側パーセント点を用いる. 改良方式の標本平均の標準化値 z = 1.75 は,片側 5 %点の 1.64 よりは 大きく,片側 1 %点の 2.33 よりは小さい.
よって,改良方式は通常方式と成長量は 5 %水準で有意に増大したと言えるが,1 %水準 では有意でない.
両側検定であれば,5 %水準でも有意にならなかったことに注意.つまり,改良方式と通常方式 の間には有意な差はみとめられなかった,という結論になった.片側検定の方が有意な結果 が出やすい.

両側検定と信頼区間

母集団平均に対する両側検定は,母集団平均に対する信頼区間と大きな関係がある. いま,帰無仮説(H0)と対立仮説(H1)が,

H0:μ = μ0
H1:μ ≠ μ0
であり,母分散 σ2 が既知のときを考える.
標本の大きさが n で,標本平均が  \bar{x} であったとすると,

個々の標本 xi は,平均 μ,分散 σ2 の正規分布に従う. → xi ~ N(μ, σ2 )
標本平均 \bar{x}  は,平均 μ,分散 σ2/n の正規分布に従う.→   \bar{x} \sim {\rm N}(\mu, \frac{\sigma^2}{n})
これを標準化した z は,標準正規分布に従う.→ z = \frac{\bar{x} - \mu}{\sigma/\sqrt{n}} = \frac{\sqrt{n}(\bar{x} - \mu)}{\sigma} \sim {\rm N}(0, 1)
母平均 μ に対する 95%信頼区間は, 
{\rm Pr} \Bigl[ -1.96 < \frac{\sqrt{n}(\bar{x}-\mu)}{\sigma} < 1.96 \Bigr] = 0.95 
{\rm Pr} \bigl[ \bar{x} - 1.96 \cdot\frac{\sigma}{\sqrt{n}} < \mu < \bar{x} + 1.96 \cdot\frac{\sigma}{\sqrt{n}} \Bigr] 
となる.
一方,この検定の検定統計量は,標本平均の標準化値の絶対値
|z| =\frac{\sqrt{n} |\bar{x} - \mu_0 |}{\sigma}
で,有意水準 5 %で帰無仮説を受諾するのは,検定統計量 |z| が両側 5 %点である 1.96 以下のときである.つまり,
帰無仮説を受諾 ⇔ -1.96 < \frac{\sqrt{n}(\bar{x}-\mu)}{\sigma}} <1.96
である.この両者の関係より,
帰無仮説を受諾 ⇔ 母平均の信頼区間に μ0 が含まれる.
帰無仮説を棄却 ⇔ 母平均の信頼区間に μ0 が含まれない.
が成り立つ
Copyright (C) 2008, Hiroshi Omori. 最終更新:2011年 7月 3日