東京農工大学

生物統計学演習 2


 以下の問題の解答は,グラフや表をワードに貼り付けて,考察を書いて提出.R のスクリプトは 特に必要ない.提出は 11月6日(金)の昼頃までに,クラスルームを用いた課題提出か、
fs7263@go.tuat.ac.jp
まで、メールの添付ファイルで送付して下さい. 解答例は次回講義の開始時もしくは次週にアップする予定です.

問題1:検定の検出力

 まったくの仮想的な話である。通常の豚の飼育では生後1年ごろ、月あたり10kg成長し、その成長量の標準偏差が2kgであった。ある養豚家が新しい飼育方法を開発した。この飼育法で育成すると月あたり平均11kgの成長が見込めるという。成長のばらつきは従前の方法と変わらないとすると、この飼育方法に効果が認められるのを t検定を用いて90%の確率で確証するためには何頭の豚での飼育実験が必要か。
また、この検定を符号順位和検定で行うとすると、何頭の豚での飼育実験が必要か。

ヒント1:t 検定の検出力のところで、nを変えてみる。
ヒント2:符号順位和検定をやるには、

res <- t.test(x, mu=m0)
のところを
res <- wilcox.test(x - mu0)
にすればよい。

問題2:園芸療法の効果

 園芸療法(horticultural therapy)は第2次大戦後、兵士のリハビリテーション等を通して欧米で発達してきた。日本でも1990年代から身体障害者,精神障害者,高齢者等の生活の質(QOL, Quality Of Life)やセルフエスティーム(self-esteem,自尊感情)を向上させる手段として注目されてきていている。
 園芸療法の数値的・客観的な効果の計測を行うため、認知症診断に用いられるMSE(Mental State Examination,心理機能検査)、CDT(Clock Drawing Test,時計描画テスト)と老年者や認知症患者の日常生活の遂行能力を測る NM スケール(N 式老年者精神状態評価尺度)、N-ADL(N 式老年者日常生活動作能力評価尺度)、および、気分の状態(抑うつ、活気のなさ、怒り、疲労、緊張、混乱)を計測するPOMS(Profile Of Mood State)、自己記入式QOL質問表QUIKを用いた。これらの調査を園芸療法の前後でクライアントに対して行い、効果の数値的計測を行った。

文献

 ここでは、MSE の結果についての解析を行う。MSEは30点満点で、点数が高いほど日常生活に適応していると考えられている。MSEに関しては前後とも回答したクライアントの総数は 19 例であった。データは下の表のようであった。

データダウンロード

問1.園芸療法 を施す前と後では,心理機能に差がないという帰無仮説,すなわち,

H0:差 = 0

の検定を行え。また、85歳未満の若年層のデータを取り出したとき、帰無仮説の検定を行い、考察を行え。

ヒント:

若年層データの取り出しは、
young <- which(mse$age < 85)
とすればよい。

問2.問1では心理機能検査(MSE)データを対のある 2 標本データとして解析した。 園芸療法前データを対照とし、園芸療法後データを処理とみなした2標本データとして検定する(正しいやり方ではない)と結果はどうなるか。若年層を取り出したときはどうか。 問1と検定結果が異なったとしたらその理由を考察せよ。

問題3:メンデルの遺伝実験

 メンデルの分離の法則実験において、形質「種子の形」は、優性:劣性の分離比が 3:1 に適合しているかの適合度検定を行い、分離比は 3:1 に適合していると考えても問題無い、との結論が得られた。以下の問に答えよ。
  1. 表に与えた他の 6 形質すべてにおいて、分離比が 3:1 に適合しているかの適合度検定を行え。
  2. 表に与えた 7 形質は、すべて互いに独立に遺伝すると仮定する。7 形質の適合度検定における χ2 値をすべて加えた値を求めよ。また、この値が帰無仮説のもとで従う分布を記載せよ。
  3. χ2 値をすべて加えた値から、メンデルの実験データに関して類推できることを記せ。

問題4:食中毒原因食材の特定

 1940 年のNew York 州Oswego の協会の夕食会における胃腸炎異常発生の喫食 調査データによると食材と食中毒症状とで以下の関係があった.

食品名 発症あり 発症なし
 食べた  食べない  食べた  食べない
ケーキ 27 19 13 16
ハムステーキ 29 17 17 12
バニラアイス 43 3 11 18
チョコアイス 25 20 22 7
フルーツサラダ 4 42 2 27

 食材ごとの発症データから,χ2 独立性検定とオッズ比を使って 食中毒の原因食材を推定せよ.すなわち,オッズ比が 1 より有意に大きくなった食材が食中毒の 原因食材と特定できる.オッズ比が 1 より小さな食材は食中毒発生を抑制した食材である. このような食材があった場合,どうして抑制効果があったのか考察せよ.
Copyright (C) 2011, Hiroshi Omori. 最終更新日:2020年10月19日