個人住宅庭園の位置づけ |
自然の植生が急速に失われている都市近郊において,住環境やその周りの
「緑」は重要であると考えられる.
このような都市部の「緑」といえば,公園,寺・神社,街路樹などの
公共のものがあげられるが,個人の住宅庭園も重要な位置占めている.
それは量的な面ばかりでなく,
庭などの身近な自然環境でも人間にとって「精神的回復・癒し」の効果がある
からでもある.さらに,個人の庭は生活に密着し,
能動的に改変できる個人の表現の場と
して,場所アイデンティティの対象としての機能と意味を持っている.
また,庭の利用形態や景観に対する嗜好は,経験や文化の影響を受けている
と考えられる.
このように個人の庭は,気候・風土・文化・個人の嗜好などの変数が複雑
に絡まりあった出力として捉えられ,その景観も多様であると考えられる.
このような複雑な様相を占める個人の庭
に関して数量的な研究を行うのは大変興味深いが,それには統計的な標本抽出調査が
必要である.そうすることによりはじめて集団特性(collective characteristics)としての
国民性が捉えられる.
日本の代表的な新興住宅地として,東京都心から1時間ほどの横浜市青葉区を調査対象地区にした.
横浜市青葉区の詳細住宅地図上に一様乱数で打点して
サンプリング
を行った.平成12年の5月の連休明けから6月
上旬にかけて対象家屋を直接訪問して,
全体で78軒から調査許可が得られた.調査の内容は,住人に対するガーデニングに対するアンケート
調査と庭の景観のデジタルカメラによる写真撮影であった.1軒あたり30ショット程度の撮影を行った.
収集した庭景観写真を眺め,その庭の雰囲気を最もよく表現していると思われる写真を1枚抜き出し,
それを,
対象家屋の庭景観の代表
とした.なお,景観研究で刺激に写真を用いた
先行研究は多数行われており,写真による景観評価の妥当性は高いと考えられる.
しかし,別の写真を代表とすれば異なる印象をもたらすことは十分に想定される.
この意味で,印象の計測は庭景観に対するものというよりは,庭景観のある特定の断面を切り取った
写真に対してのみ行っているにすぎない,という批判はいつまでも残るといえる.
写真刺激を用いて,東京近郊の新興住宅地における個人庭園のパターン分類を
東京大学農学部学生を被験者にして,
行い,その特徴を記述するためいくつかの評価実験
を行った.
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