集合知による景観調査
Landscape survey by collective inteligence
東京大学大学院農学生命科学研究科
大森 宏
集合知とは
多くの人の予想や意見を総合すると,よい予想や結果が得られることがある.これを,
集合知(collective inteligence)あるいは,
群衆の英知(wisdom of crowds)と呼んでいる.情報技術の進展により,多くの人の
意見を収集して集約することが比較的容易に行われるようになってきたので,
最近注目されている概念である.
集合知は以前から知られていた.たとえば,株式市場や競馬のオッズなどがこれにあたる.
株式市場でのバブル崩壊の例でもわかるように,集合知がいつもうまくいくわけではない.
ウィキペディア
によれば,集合知がうまく行く条件として,
- 意見の多様性(Diversity of opinion)
- 独立性(Independence)
- 分散性(Decentralization)
- 集約性(Aggregation)
の4つを与えている.
集合知を利用した景観解析
現在,多くの学生が写真機能つき携帯や,デジカメを所有している.また,ネット環境も充実しているので,
画像データを収集するのはとても容易になってきた.そこで,多くの学生に画像データを収集してもらい,
ターゲットとなる景観の特徴付けを行うことを試みた.
画像収集法
2008年度学生実験において,夏休みの課題を出した.
東京大学農学部附属の田無農場(東京都西東京市)で自分の気に入った景観を 3 点撮影し,
それを選んだ理由をできるだけ詳しく記述して,メール
で提出させた.
22 名の学生から 66 枚の景観画像を収集することができた.結果は以下のようであった.
画像間類似度の推定
景観画像の類似度は,画像の物理特徴量(色分布,自己相関)などからは難しい.人間の目の観察力を利用して行う.
ウェブ上に、以下のような
を構築し,後期の学生実験で
学生に類似画像をグルーピングしてもらった.すなわち,何らかの意味で「似ている」と感じた景観写真を
同じグループに入れ,景観写真全体を 3 つから 20 までのグループに分ける作業である.
2 つの画像が同じグループに属した割合で,画像間の類似度が推定できる.
景観写真間の類似度行列の一部は以下のようになった.
これをみると,pic1 と pic2 が何らかの観点で「似ている」と感じた学生は 2 人だけであったが,
pic2 と pic3 が「似ている」と感じた学生は 14 名もいた.これより,pic2 と pic3 は類似画像で
あるが,pic2 と pic1 は類似画像でないとみなすことができる.
MDS による景観画像の布置
類似度行列から多次元尺度法(MDS) により景観の配置が得られる.計量的 MDS の固有値が,
軸 | 第1軸 | 第2軸 | 第3軸 | 第4軸 |
固有値 | 8317.5 | 7335.7 |
4118.7 | 2152.9 |
となったので類似度の情報は,第1軸と第2軸で表現できることがわかる.
景観の配置図を図示すると,三角形になった.上の頂点に建物の写真が集まり,右下の頂点に道の写真,
左下の頂点に畑の写真が集まった.これより,田無農場は
3つの景観で代表されることがわかる.
景観写真を貼り付けた MDS 布置のウェブ画面を以下に示す.このサイトでは,重なった写真画像をドラッグにより
動かすことができるので,どのような写真が集まっているかがよくわかる.また,画像をダブルクリックすると,
大きな写真が表示される.この景観布置サイトにより,ターゲットとなった場所の景観の全体像が表現される.
景観画像の評価
好まれる景観を調べるために,
画像評価サイト
を構築し,20名程度の学生に写真に対する好き嫌いを 4 段階で評価してもらった.
平均的に好まれる景観写真を景観布置上にマップできるようにした.
写真に対する好みとできばえの相関は田無景観と東大景観どちらでもかなり高かった.
他の事例
東京大学本郷・弥生キャンパス
2009年度実験課題
東京国際大学(埼玉県川越市)キャンパス
2009年度統計学課題