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2-1. 被殻の構造 |
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珪藻の細胞膜の外側を覆う構造は幾つかのものがあります。まず、なんといっても目立つものは被殻でしょう。そして、その外側には薄い粘液質の層があります。これは時に有機被覆(organic casing)として報告されています。また被殻を裏打ちするディアトテプム(diatotepumもしくはdiatotepic layer)と呼ばれる有機質の膜状の層の存在も透過型電顕の観察により一部の種で知られています。
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珪藻の細胞壁に当たる部分が被殻(frustule)で、これは無色透明の珪酸質(SiO2・H2O)でできています。被殻は幾つもの珪酸質構造体の要素が組合わさってできているもので、それらには形態学上の呼び名があります。
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細胞を被っているすべての要素をまとめたものを被殻(frustule)と呼びます。被殻は上半被殻(epitheca)と下半被殻(hypotheca)から構成されます。さらに上半被殻は上殻(epivalve)と上半殻帯(epicingulum)から構成されています。同様に下半被殻は下殻(hypovalve)と下半殻帯(hypocingulum)から成ります。そして、それぞれの半殻帯は数枚の帯片(bandもしくはcopula)から構成されます。また特に上、下を分ける必要のない場合には、単に半被殻、殻と呼びます。帯片は殻側より第1帯片(1st band)、第2帯片(2nd band)・・・・と呼んでいきますが、第1帯片のことを特に接殻帯片(valvocopula)と呼ぶこともあります。なお、上半殻帯と下半殻帯をまとめて殻帯(girdle)と呼んでいます。 |
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(1)殻面・殻套・帯面
殻は殻面(valve face)と殻套(mantle)の部分に分けられます。殻を弁当箱の蓋にたとえると、蓋の上の部分、すなわち内側がご飯に接し、外側には絵やシールがあったりする部分を殻面と呼び、蓋の側面、すなわち蓋を開けるとき指で持つ部分を殻套と呼んでいる。また被殻において、殻套と殻帯が見える面を帯面(girdle face)と呼びます。
(2)胞紋・条線・胞紋・間条線
被殻において光学観察で点紋に見える構造は、電顕的には胞紋(areola)として観察される構造です。これが一続きに並んだものを条線(stria)と呼んでいますが、この条線密度は分類をする際に重要な形質です。また、条線と条線の間の珪酸質の肥厚している部分を間条線(interstria)と呼んでいます。
(3)有基突起・唇状突起
中心珪藻には有基突起(strutted process)とよばれるいくつかの殻外側に突出する中空の突起を持つものがあります。この突起は殻内側でその周囲に2〜4個の付随孔(satellite pores)を持ちますが、この有基突起の孔と付随孔の孔は殻の内部でつながっています。有基突起からは糸状の粘液が放出され、それによりプランクトン性の種類は浮遊力を高めています。
中心珪藻と、羽状珪藻の無縦溝類および原始縦溝類には殻の内側へ突出する唇状の形をした唇状突起(labiate process)を持つものがあります。中心珪藻の唇状突起はしばしば殻の外側にも突出部を持っています。唇状突起も内部は中空で、ここを通って粘液が殻外に放出されていますが、有基突起からでる粘液のように、殻の外でしっかりした糸にはなりません。唇状突起は下に述べる縦溝の起源と考えられています。
(4)縦溝・縦溝枝・裂溝・軸域・縦溝中肋
羽状珪藻の縦溝類では、長軸方向(2つの極を結ぶ軸)に走るスリットがあり縦溝(raphe)と呼んでいます。しかし我国では英語をそのままカタカナ読みしラッフェと呼ぶ研究者も少なくありません。英語のrapheはラテン語のraphe(英語と同じ綴)に由来し、語源は医学用語の縫線、縫合線です。縦溝は双縦溝類と単縦溝類では殻面にありますが、原始縦溝類では縦溝は極末端付近で殻面を走るものの、その大半は殻套部にあります。
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縦溝は一方の極からもう一方の極まで分断されずに走る種もありますが、中央で分断される種も多くあります。この分断された2本のスリットのそれぞれを縦溝枝(raphe branch)と呼びます。スリットの殻外側表面での開口部、すなわち裂け口のことを外裂溝(outer fissure)と呼び、殻内側表面の裂け口を内裂溝(inner fissure)と呼びます。 |
誤って認識しがちなことが一つあります。それは縦溝というのはスリット、すなわち空間であって、珪酸質でできた構造体ではないことです。縦溝の両側の珪酸質の部分、すなわち縦溝という隙間を実質的に作っている部分は軸域(axial area)もしくは縦溝中肋(raphe sternum)と呼びます。
(5)師板・多孔師板・肉趾状師板・師皮
多くの場合、胞紋は殻の外側か内側、もしくはその両側が薄い珪酸質の構造によって塞がれています。これらが師板(velum)と師皮(rica)です。師板のほうがやや厚く多孔師板(cribrum)、輪形師板(rota)、肉趾状師板(vola)に細分されます。いずれも円形の孔(直径30ナノメーター以下)あるいは不定形のスリットによって胞紋の内部と外部の連絡ができるようになっています。師皮(rica)は非常に薄い珪酸質の膜で15ナノメーター以下の小孔が多数存在します。また、羽状類珪藻の胞紋の閉塞様式を肉趾状閉塞<※Link:Nanofrustlum.jpg>(volate pore occlusion)と薄皮状閉塞(hymenate pore occlusion)の2つにわけて呼ぶこともありますが、前者は肉趾状師板による胞紋開口部の閉塞であり後者は師皮によるもののことです。
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珪藻殻の構造は複雑かつ多様で、その他たくさんの用語があります。上に記した形態用語は、そのほんの一部にしか過ぎません。このため国際的な用語統一のための委員会が作られ、1975年に『珪藻についての用語と記相の標準化のための提案』が作られました。その後1979年に、これをさらに検討した『珪藻細胞の珪酸質構成要素のための改訂用語』が作られています。しかしそれ以降新たに作られた用語もあり、統一されていない用語も多く存在します。日本語での表記については、大まかなところでの共通理解がなされているものの、今のところ用語の統一化は完全にはされていません。しかし、時代の流れとともに使用される日本語表記が絞られてきているのは事実です。やはり、不自然な表記は淘汰される運命にあるのでしょう。
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