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2-2. 被殻の形成 |
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核分裂が終わると、幾つかの例外を除けば微小管重合中心(MTOC)は分裂溝の近くに移動します。この部分はパターンセンター(pattern center)が形成されるすぐ近くの場所です。パターンセンターは別名、構造中心とも呼びます。
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殻形成中の細胞にコルヒチンやAMP(amiprophosmethyl)などで処理をすると、殻構造の構成要素は全てそろっているにもかかわらず、全体的にひきつった模様の殻ができます。これはパターンセンター(構造中心)の場所が異常な所に移動するためです。
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珪酸化は常に珪酸沈着胞(SDV:silica deposition
vesicle)内でおき、珪酸沈着胞は常に細胞膜の内側に位置しています。珪酸沈着胞は最初は小さく、珪酸が重合し沈着面積が増えるにつれ次第に広がります。このとき微小繊維が珪酸沈着胞の縁に位置しています。珪素沈着胞の膜をシリカレンマ(silicalemma)と呼びますが、この膜は新殻形成のための鋳型としての役割を持つと考えられています。
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珪藻の殻は全体が同時に形成されるのではなく、一定の順番に従って珪酸化が進行していきます。これはちょうど多細胞生物の受精卵が発生をするときに、ある決まりに従って形態形成が行われていくのに似ています。このため、珪藻の殻の形成のことを英語ではvalve ontogeny(殻の個体発生)ともいいます。
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娘殻で最初に作られる部分はパターンセンター(構造中心)とよばれる場所です。パターンセンター(構造中心)の名前は、この部分から放射状に、また左右対称に殻の模様が配列していることに由来します。パターンセンターはその形状によって大きく2つに分けられています。すなわち、中心珪藻では中心環(anulus)、羽状珪藻では中肋(sternum)と呼びます。また、羽状珪藻の縦溝類では無縦溝類のものと区別するため縦溝中肋(raphe
sternum)の用語も用います。これらの部分が娘殻のどの部分に形成されるかによって、引き続いて形成される殻の模様のパターン(放射相称、左右相称など)が決まるのです。
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2-2-6. パターンセンターの位置が基本形態を決める |
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細胞分裂後、移動した微小管重合中心の位置がパターンセンター(構造中心)の位置決めに関わります。たとえば、無縦溝珪藻のイタケイソウ属(Diatoma)では殻面の片方の極で、この場所はその後形成される中肋の端にあたります。一方、縦溝珪藻では微小管重合中心の場所に隣り合って中肋の中央部が形成されるようになります。たとえばヒシガタケイソウ属(Frustulia)では殻面の中央であり、ユミケイソウ属(Hantzschia)では殻面の側縁、また、コバンケイソウ属(Surirella)では殻面の極となります。そして、その場所を中心として縦溝中肋が両方向に形成されるのです。
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このように、殻形成初期におけるパターンセンター(構造中心)の違いが目や亜目など上位分類階級の基本形態の違いを生じさせているのです。パターンセンター(構造中心)の部分が完成すると、そこから垂直に伸びる肋と、それらを横に仕切る壁が発達し、これにより条線と胞紋が形成され、種特有の模様が作り出されるのです。 |
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役割を終えた「古い」細胞膜とシリカレンマの運命については2つの仮説があります。1つは「古い」細胞膜とシリカレンマは共に崩壊し、殻の外側を覆う有機被覆(organic casing)へと変化するというもので、この場合、まったく新しい細胞膜が殻の内側に形成されると考えられています。もう一つは「古い」細胞膜と殻の外側のシリカレンマは崩壊するのですが、殻の内側にあったシリカレンマそれ自身がが機能を変化させ、新しい細胞膜になるというものです。
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中心環、中肋、縦溝中肋など異なる形のパターンセンター(構造中心)の成り立ちについては未だ謎も多く残っています。しかし、双縦溝類と単縦溝類のパターンセンター形成について興味深い観察があります。
双縦溝類は上・下殻ともに縦溝があり、両殻の中肋の形成過程は基本的に同じです。一方、単縦溝類では、縦溝殻の中肋形成過程は双縦溝類と同様なのですが、無縦溝殻は一度形成された縦溝が二次的に消失する(珪酸質で埋められる)ことにより生じるのです。
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記録によると、単縦溝類の化石は双縦溝類のそれよりも2000万年ほど新しい漸新世の地層以降に産出します。この事実を考え合わせる時、上記の単縦溝類の殻形成の過程は、珪藻類の進化過程の考察に貴重なデータを提供しているといえるでしょう。 |
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