1. 体制
2. 浮遊性・付着性
3. 滑走運動
4. 細胞内共生
4-3.
滑走運動
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4-3-2. 電顕観察からわかったこと
4-3-3. 滑走運動のメカニズム
4-3-4. 依然として残る謎
4-3-5. もう一つの滑走運動
4-3-1.
ゆっくり動く珪藻
羽状珪藻の縦溝類は付着物の表面を「滑走」します。速さは種類により、またその時の細胞や環境の状況により異なりますが、一般的なものでは1秒間に1〜25μmほど。鞭毛で動く他の生物と比べて、はるかにゆっくりしています。前進ばかりでなく後退もします。ただし、珪藻が基物(付着面)に接していない時は動きません。また光が当たっているとよく動きます。滑走した後の基物の上にはわずかな量の粘液がしばらくの間軌跡を残します。
4-3-2.
電顕観察からわかったこと
珪藻がどうやって滑走するのかについては長年議論がなされてきました。動く珪藻はすべて縦溝を持ちます。そこで、光学顕微鏡しかなかった時代は縦溝から水流が噴射されている、あるいは縦溝から排出された粘液物質が膨潤しその圧力で動く等いろいろの仮説が出されました。
(a)
縦溝の内側の細胞内に粘液物質を含む顆粒が多数形成されている。
(b)
この顆粒は殻の中央部、すなわち中心節(central nodule)付近に最も多く作らている。
(c)
顆粒内の物質が細胞膜から外に粘液となって放出され、縦溝内を通って殻の外に次々と放出されている。
(d)
この粘液物質は繊維状になって放出され、その繊維の一端は細胞膜上に残り、もう一端が基物に接している。
(e)
縦溝の内側の細胞膜直下には、縦溝に沿ってアクチンのフィラメントが走っている。
4-3-3.
滑走運動のメカニズム
エドガーの観察より現在では珪藻の滑走運動は、つぎのように起きる考えられています。
滑走運動をする羽状珪藻の
細胞縦断面模式図
(a)
アクチンフィラメントが細胞膜直下で動き、それに伴い細胞膜上の粘液繊維が中心節付近から殻の末端の方向に移動する。
(b)
粘液繊維の一端は基物に付着しているので粘液繊維が動くと相対的に細胞は逆方向へ移動する。
(c)
細胞膜上の粘液繊維の一端が殻の末端まで来ると、縦溝の極裂によって繊維は切られる。
(d)
切られた粘液繊維が基物上に残り、それが珪藻の運動によって作られる粘液の軌跡を作る。
4-3-4.
依然として残る謎
しかし、上記の説ですべてが解明されたわけではありません。いまだアクチンフィラメントと細胞膜そして粘液繊維がどのような形で結びついているのかがわかっていません。膜介在タンパク質の存在が考えられていますが、その存在もまだ明らかではありません。また、動きを生じさせる根本的なメカニズムについても不明です。珪藻の滑走運動はまだまだ謎が多く残っているのです。
4-3-5.
もう一つの滑走運動
ピケットヒープス(J.D.Pickett-Heaps)らは1991年に今まで知られていない方法で動く珪藻を見つけました。この珪藻は海産の無縦溝類のもので、学名をアルディッソーネア・クリスタリーナ(
Ardissonea crystallina
)といいます。この種には縦溝は無いので、それによって動くのではありません。この種類では殻端部の殻と第1帯片の重なり目にできた溝状の隙間から粘液を出して、それによって動くのです。動く速さは1秒間に1〜2μmと、相当ゆっくりしていますが、それでも1分間に60〜120μm動くのですから、タイムラプスビデオなどを使わなくとも楽に認識できる速さでしょう。上半被殻と下半被殻の両方の隙間から粘液がでるため、珪藻が動いた後に残る2本の粘液の筋は、ちょうど船の後尾より水を噴射して動くジェット船の通った後のように見えます。