ミクロの生物「珪藻」から川の環境を見つめてみよう
ビデオビジュアルナレッジSimRiver珪藻百科SimDiversity使い方

珪藻群集と環境
5-2. 珪藻と物質循環

5-2-1. 小さいけれど大きな生物


 珪藻はミクロの生物です。だからといって、その生物量をあなどってはいけません。地球規模で年間190億トンもの有機物を生産しているのです。また、珪藻が毎日生み出す酸素の量は、全地球上の光合成生物が放出する酸素の25%にも達するのです。これらの量を考えると、珪藻は我々人類を含めた地球生態系の中で、大きな役割を演じていることがわかると思います。
*珪藻とCO2吸収については【コラム】をご参照下さい。

ページトップへ
5-2-2. 珪藻よ、なぜ繁栄する!


  地球は水の惑星です。地球表面の70.8%は水で覆われています。そのほとんどは海水です。大形の海藻はすべて付着生活をしているので、沿岸の浅い海域でしか生活できません。しかし、珪藻は付着種のほか浮遊性種がいます。大海のど真ん中や、水深数千メートルある海域でも浮遊珪藻は生きているのです。


ページトップへ
5-2-3. 効率の良い栄養とCO2取り込み


  珪藻細胞は他の単細胞性の藻類と異なり、球形や楕円球の形をとらずに、複数の面からなる、カドのある形をとっています。これにより、体積あたりの表面積を大きくとることができます。このことは、粘土でボールを作った後、そのボールを手のひらで押して平たくしてみることを考えれば、簡単に理解できると思います。平たく伸した粘土は、グニャリとしてしまいますが、珪藻はガラスのような硬い被殻をもっているので、形を保つことができます。実際、珪藻には細長い種類や平べったい種類がかなり多くあります(付着珪藻ではこの傾向はより高いものとなります)。体積に対する表面積の比が大きくなると、単位原形質あたりに供給する無機塩類などの栄養とCO2値は高くなるので珪藻の形は生存戦略上とても有利です。さらに、珪藻はどの種類も大きな液胞をもつため、核のある中央部を除き、原形質は被殻の内側にへばりついたように配置しています。つまり、被殻の内部は原形質で一杯に満たされていないのです。このことも、細胞における原形質の単位体積あたりに供給される栄養とガスの量を増加させるため、生存戦略上有利に働いているといえるでしょう。

ページトップへ
5-2-4. 効率の高い光合成


 2000年に米国Reinfelderらは英国の科学雑誌Nature誌上で、珪藻のタラシオシラ・ワイスフロッギーThalassiosira weissflogiiがC4光合成を行っている証拠を報告しました。C4光合成は陸上植物ではトウモロコシなどでお馴染みのフォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPカルボキシラーゼ)経由でRubiscoが炭素を受け取り暗反応が進む光合成で、Rubiscoだけで炭酸固定をおこなうC3光合成よりも効率の良いことが知られています。珪藻のRubisco のCO2半飽和定数30-60μMですが、海水にとけ込んでいるCO2は10μM程度ですので、珪藻はいつもCO2欠乏状体になっていて、元来もっているRubiscoの能力を目一杯使えていない可能性がありました。ところが中心珪藻のThalassiosila weissflogiiのPEPカルボキシラーゼの生化学的な活性特性と細胞の増殖試験から、この種がC4光合成を行っていることがわかりました。

 珪藻は中生代白亜紀以降に登場する、生物進化の歴史の中では比較的新しい生物です。珪藻は生存戦略として、さまざまな最新メカを細胞に搭載した生物といえるのではないでしょうか。


ページトップへ

最初の画面へ全コンテンツ一覧Copyright