ミクロの生物「珪藻」から川の環境を見つめてみよう
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珪藻群集と環境
5-4. 識別珪藻群法による水質判定

5-4-1. 識別珪藻群


 識別珪藻群とは、汚濁に対する出現特性によってまとめられた珪藻のグループで、つぎの3群があります。


.識別珪藻群A〜Cの出現パターン

識別珪藻群A強腐水域に出現する珪藻からなる群ですが、この群の種類は強腐水よりもきれいな水域でも生育できます。しかし、そのような水域では、他の群の種類もよく増殖するので、相対的に群落内におけるパーセントは低下します。このような特性をもつ種類(強汚濁耐性種)は10種類あり、それらが属するグループを「識別珪藻群A」と呼んでいます。また、その汚濁に対する出現様式を「タイプA」の出現様式と呼んでいます。
識別珪藻群B河川で珪藻の現存量が最も多い水域はβ-中腐水域からα-中腐水域へ移行するBODが4〜7くらいまでの水域です。つまり中程度に汚れているところが一番生育がよく、それよりきれいでも、それより汚くても石に付着する珪藻の数は減ってしまいます。中程度の汚濁水域は無機塩類の量が多く、珪藻にとっては栄養豊かな水環境です。このような水域からα-中腐水域まで高頻度で出現する珪藻は「識別珪藻群B」に属しますが、どれも強腐水域では生育できません(中汚濁耐性種)。識別珪藻群Bに属する種類は64あり、汚濁に対して「タイプB」の出現様式をとります。
識別珪藻群C:「タイプA」でも「タイプB」でもない出現様式をとる種類は「タイプC」の出現様式をとります。これらの種類は汚濁に対して非常に敏感で、α-中腐水域では生育できません(弱汚濁耐性種)。このような出現様式をとる種類をまとめて「識別珪藻群C」と呼びます。我国の河川において普通にみられる珪藻は350種程度ですが、識別珪藻群AとBに属さない種類は皆この群に属します。

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5-4-2. 識別珪藻群法の手順


 識別珪藻群法による水質判定は、上記の3つの識別珪藻群を用い、採集地点の珪藻群集を構成する3つの群の割合から汚濁指数を計算することによって、どの汚濁階級に属するかを判定するものです。(注:識別珪藻群法では、貧腐水〜強腐水までの水質階級を判定し、特殊な工業廃水などは判定対象外としています。)

(1) 調査地点で直径15cm以上の石を選び、表面に付着する珪藻をブラシでこすり、採集します。
(2) 採集した試料を、クリーニングし、プレパラートを作成します。
(3) 顕微鏡でプレパラートを観察し、図鑑を使って珪藻の殻を同定しながら、表の左欄に学名、右欄に計数した殻数を正の字で書き込んでいきます。通常は合計殻数が500殻以上に達するまで作業を続けます。
下のボタンを押すと、識別珪藻群AとBの全ての種類を含む図鑑にアクセスできます。

識別珪藻群A識別珪藻群B



顕微鏡で観察したプレパラートの例(モデルプレパラート)

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(4) 出現種ごとの汚濁階級指数(saprobic value:s)を殻数(n)に掛け合わせ、数値を書き込みます。汚濁階級指数は(s)は例外を除き、識別珪藻群Aの種類には4、識別珪藻群Bの種類には2.5、識別珪藻群Cの種類には1が割り当てられています。(注:潮の影響を受けない淡水域では、A群のNavicula venetaLuticola goeppertianaには3.25、B群のNitzschia frustulumには1、Nitzschia hantzschianaには1.75の値を与えて下さい。)


ワークシートの例(モデルプレパラートに対応)

(5) ワークシートが完成したら、調査地点の水域の水質判定をします。判定には汚濁指数(S:Saprobic Index)を使用します。この指数は1〜4で水質を表し,1が最もきれいな水質状態を,4が最も汚い水質状態を表します。
汚濁指数(S)の算出式は以下の式を用います。


汚濁指数の計算式、<※説明:>S:汚濁指数、n:個々の種類の殻数、s:個々の種類の汚濁階級指数

汚濁指数 汚濁階級

1.0以上1.5未満
1.5以上2.5未満
2.5以上3.5未満
3.5以上4.0以下
貧腐水(きれい)
β-中腐水(割合きれい)
α-中腐水(汚れている)
強腐水(ひどく汚れている)
汚濁指数から判定される汚濁階級

*汚濁階級と生物化学的酸素要求量(BOD)との関係は【コラム】をご参照ください。

 このワークシートの例では汚濁指数が3.3なので、α-中腐水(汚れている)と判定されます。

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5-4-3. 水質判定での珪藻の同定


 日本の河川に出現する珪藻は約350種、うち識別珪藻群Aの種類は10種、識別珪藻群Bは64種ですので、この74種類さえ同定できれば、あとは同定できなくてもかまいません。それらは全部識別珪藻群Cの種類となります。大切なのは種の同定ではなく、各群の割合です。汚い川ほど出現する種類数は少なく、同定できる殻は多いはずです。また反対にきれいな川ほど出現する種類数は多くなり、同定できない殻も多くなるでしょう。

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参考文献


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