ミクロの生物「珪藻」から川の環境を見つめてみよう
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分類と系統
6-3. 分子系統

*分子系統に関係する用語は【コラム】をご参照下さい。

6-3-1. 18S rDNAの塩基配列に基づく分子系統


 珪藻の種数は大変多いので、全体の分子系統樹が完成するにはまだまだ時間がかかりそうです。また、絶滅してしまった化石属もかなりあるので、すべての属を含む分子系統樹の構築は不可能でしょう。珪藻の分子系統はドイツのLinda L. Medlinを中心として解析がおこなわれてきました。ここでは、国際塩基データベースに登録されている彼女らの解析した18S rDNAの配列をもとに、26属の珪藻について近隣結合法を用いて系統樹を描いてみました。

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 上左の図は無根系統樹で、上右の図はRound et al.(1990)の分類体系と対比しやすいように、進化速度を反映しないで描いた有根系統樹です(このページの下方に、Round et al.の分類体系と重ね合わせた図を描いています)。


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6-3-2. 分子系統樹は従来の体系と異なっていた!


 上の2枚の図からわかるように、分子系統樹では中心珪藻類が、まず2つに分かれます。Simonsen(1979)のように中心目と羽状目の2つに分かれたり、Round et al.(1990)のように3つの綱に分かれたりはしないのです。

 分子系統樹の最初に分岐する枝の片方の枝の先には、ツガタケイソウ亜綱、コレトロン亜綱、コアミケイソウ亜綱の属が含まれます。これらの珪藻殻の特徴は、殻の中心部に突起をもたないことです。また、最初に分岐する枝のもう一方には、中心突起を(ほとんどが)もつ、あるいは縦溝をもつ珪藻種が含まれています(Medlin et al.,1997)。言い換えると、前者の系統では、しばしば唇状突起は殻の周辺部に多く存在し、後者では中央部にもそれが存在するということになります。

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6-3-3. 羽状無縦溝珪藻は側系統


 もう一つの大きな違いは、Round et al.のオビケイソウ綱の属にみられます。彼らは無縦溝の羽状珪藻を大きな一つの分類群とみなしましたが、それは分子系統ではまったくの側系統となってしまうのです。これは、無縦溝珪藻属と有縦溝珪藻属により作られる単系統のブーツストラップ値が90以上と高いことからも十分支持されることです。

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6-3-4. 分子系統樹とRound et al.の体系を重ねてみる




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 Round et al.の分類体系と分子系統樹における下位のレベルの違いは、上図の分類群間を結ぶ線が交差するところによく表れています。しかし、Eucampia属の系統を除くと、他は小さな違いです。Eucampia属は形態的には2極性の殻を持ち、極部には隆起した眼域があり、隣り合う細胞と粘液で結合します。このような形態的特徴は明らかにRound et al.のイトマキケイソウ亜綱への帰属を想起させますが、これに対し、18S rDNAの結果はEucampia属の姉妹群として、長い剛毛をもつChaetoceros属を示しています。珪藻における分子系統は、現在18S rDNAに基づくものが主流で、他の分子種はあまり用いられていません。今後、複数の分子種に基づく系統学的解析が必要になるでしょう。

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6-3-5. 図で外群に用いたボリド藻について


 Medlin et al.(1997)では珪藻の分子系統解析のために、外群としてペラゴ藻Pelagomonas属を用いましたが、ここではGuillou et al.(1999)が新分類群として報告したボリド藻Bolidomonas属を外群としました。ボリド藻は海産の不等鞭毛をもつピコプランクトンで、珪酸質の構造はありませんが、18S rDNAの解析では珪藻類の姉妹群に位置する藻類です。なお、珪酸質でできた円形の放射状網状構造のあるプレートが、中心珪藻の増大胞子の鱗片と酷似した構造をもつため、珪藻の起源的藻類と類推されたパルマ目のTriparma属(Mann & Marchant,1989)は、現在のところ培養が成功していません。このため、分子系統学的位置は言うに及ばず、その細胞内微細構造や色素成分も未だ不明です。今後の培養の成功が待ち望まれるところです。

【引用文献】
Guillou, L., Chretiennot-Dinet, M.-J., Medlin, L. K., Claustr, H., Goer, S. L. & Vaulot, D. 1999. Bolidomonas: A new genus with two species belonging to a new algal class: Bolidophyceae (Heterokonta). J. Phycol. 35: 368-381.

Mann, D. G. & Marchant, H. J. 1989. The origin of the diatom and its life cycle. 307-323. In Green, J. G. et al. (eds) The chromophyte algae: Problems and perspectives. Clarendon Press, Oxford.

Medlin, L. K., Is the origin of the diatoms related to the end-Permian mass extinction? Nova Hedwigia 65: 1-11.

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