ミクロの生物「珪藻」から川の環境を見つめてみよう
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分類と系統
6-6. 学名の読み方

6-6-1. 学名は何語か?


 学名はラテン語で書かれています。しかし、その中にはギリシャ語起源の単語もかなり含まれます。また、各国の地名や人名をラテン語化したものも含まれています。

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6-6-2. ラテン語の発音の仕方

  現在、ラテン語を国語とする国はどこにもありません。ローマ法王を始めカトリックの僧侶はラテン語で日記をつけているそうですが、彼らが集会でラテン語で話をしているという話も聞きません。ラテン語の発音は基本的にはローマ字発音ですが、幾つかのスペルの部分では決まった発音の仕方、すなわち「リフォームド・アカデミックとトラディッショナル・イングリッシュ」の2つの方式が知られています。しかし、現在、欧米の研究者たちの多くは、必ずしもこの2つの方法に従って発音してはおらず、学名のスペルを自国語風に発音している場合が多く見受けられます。

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6-6-3. ラテン語のカタカナ表記の仕方


 珪藻に限らず、微細な生物の場合、和名がつけられている属は必ずしも多くなく、また種レベルではまったくといって良いほどつけられていません。研究者同士で話をする場合、和名がなくてもかまわないのですが、それでは一般の人に不便が生じてしまいます。そこで、学名をカタカナで表記することがしばしば行われます。

 ところが、これがたいへん頭を悩ませる問題なのです。日本語は他国語と比べ母音と子音の種類が少なく、またラテン語の発音自体、上記のように2種類あるため、うまい表記ができない場合がしばしばあります。その結果、人によって表記の仕方が異なる場合ができてしまうのです。


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6-6-4. キンベラかシンベラか?


 クチビルケイソウ属にCymbella naviculiformisという種があります。これをカタカナで表記するとどうなるでしょうか?

1. キンベラ・ナビクリフォルミス
2. キンベラ・ナウィクリフォルミス
3. キンベラ・ナヴィキュリフォルミス
4. シンベラ・ナヴィクリフォルミス
5. スィンベラ・ナヴィクリフォーミス
6. キムベラ・ナビクリフォルミス

 上記の1〜6までは、どれも間違いとはいえない表記なのです。まず、Cymbella の表記ですが、リフォームド・アカデミック方式による発音に基づいて表すと、キンベラとなります。またトラディッショナル・イングリッシュ方式に基づけばシンベラとなります。これをより忠実?に表せばスィンベラとなるわけです(かなり苦しい表現なのですが。・・・・要は"shi"の発音ではなくて、"c"の発音。スの字を小さく書いて「スインベエラ」とすると雰囲気が出ますか?)。また、5のキムベラは次の項に示した日本植物分類学会のカナ表記(案)に従うものです。 naviculi-の部分はトラディッショナル・イングリッシュではナヴィクリとなります(より日本的に発音すればナビクリとなります)。ところが、リフォームド・アカデミックの場合は「W」のように発音するためナウィクリとなるのです。また英米人はcuの部分を「cureにおけるキュ」のように発音する場合が多いようです。 -formisの部分はリフォームド・アカデミックで発音した場合の方がフォルミスに近い音になります。トラディショナル・イングリッシュで発音した場合はフォーミスに近い音になります。ただリフォームド・アカデミーの場合でも、実際は「r」の後に母音がないので「ル」と書いてしまうのは少々気がひけますが、これは子音が少ない日本語の宿命でしょう。

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6-6-5. どう表記すれば良いのか!


 少々古くなりますが、1953年の日本植物分類学会会報3号に「ラテン語の実際的なカナ文字化(案)」という申し合わせ事項が載っています。当時でも、きっと苦心して作ったものなのでしょう。しかし、今日の学名を使用する研究者のすべてが、これに沿った表記をしているわけではないのです。案の制作以降、研究の国際交流の機会が多くなり、国際学会などで聞く外国人の話す学名と音の差を感じた研究者が増え、主に英米人が発音する学名の音に近い表記をする人が増えてきたのは事実です。私も植物分類学会の案には、物足りない部分を感じる一人です。

 正直言って、良い解決方法はないと思います。これは上でも述べたように、日本語には音の数が決定的に足りないため、どんな方法を採ってもアルファベットで表示されるラテン語の音を表現することができないのです。消極的かもしれませんが、最善策は「そのスペルに対しどのような表記が可能であるかを知っておく」ということに尽きるでしょう。(・・・・しかし、これでは研究者のための回答にしかなっていませんね)。


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6-6-6. 参考文献


  山岸高旺(編著). 1999. 淡水藻類入門.内田老鶴圃,東京. ・・・・・568〜570頁に学名の表記について書かれてあります。1953年の日本植物分類学会による(案)も載っています。

Stern, W. T. 1973. Botanical Latin. David & Charles, Newton Abbot. ・・・・53〜56頁にラテン語の発音について記載があります。

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